その6 あの手この手のバリエーション

山田
からくり(創作研究会)は少量生産で、個々の質を上げる努力で商売をしてますね。
岩原
あとは多品種ですかね。昔の職人は一年間同じものを作るかわりに、数がすごい。一人でも数千個つくるようなことをやってたわけです。
逆に、手の込んだ新作を作って、一月半で20個が限界、みたいにやってると効率よくはないんでしょうけど、次々に新しいものが出ますからね。一個も売れないと困るでしょうけど(笑)、ひどいものを作らなければそういうことはないんで。
山田
個人レベルで生きていくには、この少量多品種が絶対条件ではあるんだけどね。
岩原
もしくは、人気商品をいくつか作れば、それを繰り返し作ることができるでしょうけど。
今のところ、(木工品は)プラスチック製品と完全に仕分けされちゃってて、何万個つくる世界のものとは値段でも数でも到底かなうわけがないから、ちょっと別世界みたいな感覚があります。商売上こまるというわけでも、ないですけどね。
えぢ
そうか。
岩原
むしろ、プラスチックやナイロンでからくり箱を作ったとき、どうなるのかというのは、わからない部分があります。いいものになるかどうか。
山田
なんか簡単なプラのものがありますよね。キュっと開くやつとか。
えぢ
角を持って開けるやつ。
山田
いわゆる、シガーボックスみたいな簡単なもの。
岩原
「一回箱」ですね。
山田
それはそれで量産になって一般に広まってくれると、いいんですよね。
岩原
そうですね。
山田
で、比較的からくり箱は木と差別化できそうな気がする。木は木で常にポジションがありそうな。まぁ、木の値段、って変な言い方ですけど、木製品というだけで……。
岩原
値段がありますね。
山田
もちろん、手間がかかるというのもありますけど、お金をちゃんといただけるような。
岩原
プラスチック製品は広まりすぎて、身の回りに当たり前になりすぎたから、価値を感じにくい?
山田
けど、身の回りの当たり前のものまでパズルを広げてしまいたい、っていう思いもあります。まぁ、人それぞれかもしれないけど。
えぢ
そうか、今だったらナイロンとか言う前に、3Dプリンター製品というのを売りにしてもいいくらいだ。
山田
ていうか、そうでしょうね。そういうことなんだと思います。
岩原
限定品ですよ、ということですかね。数が限定ではないんだけれども。
山田
うん、数じゃなくて。
岩原
数万個とか、本当の量産品ではないっていう。そういう理由でこの値段、と理屈で納得してもらえるかどうかは別ですけど。
えぢ
まぁね。
岩原
そのかわり珍しいし、出回ってる数は少ないわけですから。
えぢ
まぁ、3Dプリンターのメリットは在庫を抱えなくていいこと。もし金型つくったら、とりあえず一万個ドバッとできるわけでしょ。それを持っておかないといけない。
山田
それは売る方の事情としては深刻ですね。
えぢ
でも、これなら売れた分だけ作ればいい。在庫の少ないものとか、何種類かまとめてオーダーするから。
岩原
いい時代になりましたね。ある程度、一般の人までデータづくりができるようになってきたし。
えぢ
そうだねぇ。
岩原
(3Dプリンタ作品を手にとって)これがいいのは、やっぱり色味ですよね。
山田
数を揃えたくなるっていうのも、一つ大事じゃないですか。
えぢ
四つも揃えたくなる。
岩原
衣料品の量販店でも、たとえば10色そろえて置いてあったりして、気持ちが盛り上がります。
山田
職人さんとは逆の、いや別の発想なんですよね。色が違おうと同じやがな(笑)、という。
岩原
本来、商売はそっちの方が多い。
山田
かもしれません。そういうことを、ぼくらも考えないといけない。
岩原
パズル家が、そっちをできるようになっていくと、ギミックが一個できたら、それをいかにして……という流れになりそう。
山田
パズル家が考えるか、パズル家の気持ちをわかっている他のスタンスで考えるのか、ケースバイケースかもしれないけど、たしかにそうですね。
えぢ
これ、「カラーバリ」もそうだけど、「カタチバリ」なんだよね。ギミックは一緒で、全部の形を変えてあると。だから、アイデアは一つでいい。
山田
ここで、さらに四色あったっていいかも。赤のダイヤと赤のハートとか、同じ色で持ちたいという人がいるかもしれないし。
岩原
でも、そういうことですよね。箱根の秘密箱でも、違う模様の寄木を貼ってみるとか、螺鈿(らでん)みたいなものと組み合わせてみるとか、あの手この手で色んなバリエーションを作ったりします。そうすると、そっちの需要があるわけですよね。
山田
やっぱり、やらないといけないな。
岩原
どのパズルに、どれが合うか、というところも詰めていく。
山田
そこら辺は、(スタッフの方を見て)そっちの仕事ですよね?
────
(笑)
山田
やっぱり、色味のバリエーションを出すって、パズルデザインの発想とは別なんですよね。販売戦略だから。
岩原
そう考えると、販売戦略を何もやってないのかも。
山田
ぼくら、実は販売戦略を勉強していないんだ。こんだけ話して、やっとこの結論にたどり着くんだから。
一同
(笑)
えぢ
業界の人にしたら、当たり前やろって(笑)。
山田
まずカラーバリエーションだろ、みたいな。
────
さて、そろそろ時間ですので。
山田
そうですか。では、どうも、ありがとうございました。
えぢ
こちらこそ、どうも。
岩原
おつかれさまでした。
(おわり)

からくり創作研究会の展示会(終了しました)

からくり創作研究会 「大人だってあそびたい カラクリ×レトロ」
会期: 2014年4月30日(水) ~ 5月6日(火・祝)
時間: 10:00~20:00 (最終日5時半閉場)
会場: 松屋銀座 7階 和の座ステージ (東京都中央区銀座3-6-1)

えぢ ナガタ
2000年に「Pencil Case」でパズル作家としてデビューし、2008年より「パズラボ」をオープン。パズルを軸に多面的に活動中。

岩原 宏志
からくり箱の職人として、1999年より「からくり創作研究会」で活動中。独自の作風は国内のみならず海外でも評価されている。