その1 同じものを作り続ける

朝から天気の良い一日。店内に入ると、あちこちが柔らかい日差しを受けていました。その棚や壁面には、世界各国のパズルおもちゃが並んでいます。まさに遊びたい放題。そんな面白いものに囲まれたテーブルを、さらに三人が囲みます。

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パズラボでは普段、どのような活動をされているんでしょうか?
えぢ
ここはカフェっていう体裁をとってますけど、ビジネスとして成り立っているのは通販なので、自分でモノを作って、モノを売るという感じですね。
山田
モノを作る作業って、「デザイン」と「実際に作る」っていう工程があって、それは岩原さんも同じだと思うんですけど、それに費やす時間ってどんな割合なんですか?
えぢ
元々は糸ノコみたいなもので、すごい時間をかけて作っていたんだけど、機械を自動化していったり、3Dプリンターだったら外部に委託することによって、そっちの作業を抑えるようなことをやってます。
山田
今の作業としては、3Dプリンターで作ることが多いんですか?
えぢ
多いですね。やっぱり、木を削る機械も導入したけど、あれも結局その後の作業がわりと多い。
山田
あぁ。
えぢ
3Dプリンターにした方が、もうちょっと作業は楽かな。
岩原
うちとは対照的。
山田
岩原さんは手づくりですよね。
岩原
そう、手作業。
えぢ
いやぁ、でも機械化というか、量産化はしているでしょ。
岩原
ええ、まぁ。
山田
けど、量産化って、どんな規模なんですかね。
岩原
量産って言っても、数十個から、多くて200個、300個というくらいです。
山田
ぼくは比較的、モノは作らないんで、ある集まりのために100個とか作ることはあっても、年に1回くらい。基本的にはデザインを起こすまでやって、作るのは誰か別の人がやってますね。
そういう意味で、岩原さんはデザイナーでありメーカーという感じじゃないですか。さらに販売もやってるし、それは大変だろうな、といつも思ってます。
岩原
そう、自前でやってますね。
山田
それで、パズルをお金にするとき、在庫を抱えるのも怖いし、作るのに時間を取られるのも大変だから、企画・デザインまでにしておこうと思ったんです。逆に一人で成り立つなら、それはそれで興味あります。
結局、作るのにいちばん時間がかかるんですよね。同じものを作り続けるっていうのも、けっこう大変だし、職人さんとしては、小ロットでいろいろ作る方が面白い?
岩原
うーん……。
山田
そうでもないか(笑)。
岩原
でも、新作を作るとなると、数が少ないですね。ニ、三十個くらい作って、それでも一ヵ月半とか二ヶ月かかっちゃう。材料を乾かすところから始まって、それを削って、現場で考えながら作る部分もあるので。
山田
そうか、作り出す段階で、完全に設計図ができあがってる場合は少ない?
岩原
なかなか完全にとはいかないですね。もちろん、作る前に出来るだけ設計を完全に終わらせたいと思っています。サンプルを作ったりもしますが、材料や精度など、本番と同じ条件で作らないと分からない部分もあります。最後まで完全に設計を終わらせるというのは、なかなか難しいです。
山田
そうなんだ。
岩原
今作っている作品は、先にベースを作っちゃって、進んでいくなかでモノを見ながら、細かいところを詰めていっています。難しい仕掛の部分は、事前にサンプルを作って、確認をしていました。
えぢ
なるほど。
岩原
(目の前にある3Dプリンター作品を手にとって)これ、削って作るんですか。それとも、砂みたいに積み上げる方式ですか?
えぢ
粉を固めるタイプかな。
岩原
これって、効率を出せるんですか?
えぢ
精度ってこと?
岩原
いえ、効率です。
えぢ
効率って?
岩原
一個つくるための時間です。プラスチックなら型を作って、その型にはコストがかかるけど、その後は早いと。3Dプリンターのネックは、そこなんだろうなって思うんですが。
山田
スピードってことか。少量多品種に向いてると。
えぢ
あぁ、なるほど。何万個と作らないのに金型をおこしてたら、なかなかペイしないからね。
山田
それと、なんとなくイメージとして、少量多品種はいいけども、3Dプリンターは比較的にプロトタイプ的な仕上がりになる。
それと、もう一つは大きさ。パズルって、遊べる大きさってあるじゃないですか。とくに、子供とか。
えぢ
うん。
山田
そうやって作ろうとすると、けっこう値が張ってくる。
えぢ
まあね。
山田
で、木は材料代もありますけど、細かい作業を加えると高くなるわけで、だから、小さい方が高い?……そうでもないか。
岩原
ものによる、かな。
山田
3Dプリンターは、大きかったらそのままコストがかかるでしょう。
えぢ
そうですね。
岩原
いやぁ、でも(材料は)狂わないんだろうな。
えぢ
まぁ、そうなんだけど、これなんか基本的に重さで値段が決まるから、どんなものでも大きくすると、高くなる。小さくすると、安くなる。だから、試作品は小さくするわけ。
山田
じゃあ、ぜんぶ中空にしたら、安くなるんですか?
えぢ
中の材料が抜ける穴を設ければ、それは「側」だけの値段になるね。
岩原
ええっ、ぜんぜん感覚が違うなぁ(笑)。
山田
木だったら、全部くり抜かないといけない(笑)。
岩原
中空なんて、とんでもない(笑)。どうやってやるんだろう?
えぢ
ただね、金型ではできないような入り組んだものとかを、一発でガチャっと作れるから、可能性はあるよね。
岩原
すごいなぁ。
(つづく)

えぢ ナガタ
2000年に「Pencil Case」でパズル作家としてデビューし、2008年より「パズラボ」をオープン。パズルを軸に多面的に活動中。

岩原 宏志
からくり箱の職人として、1999年より「からくり創作研究会」で活動中。独自の作風は国内のみならず海外でも評価されている。