その5 モノにする二段階

山田
結局、手に取って、少なくとも遊んでもらえる機会を、ひたすら設ける。それが一つの、裾野の限界かな。
岩原
パッと見で、遊べそうと思わせてしまうような。
山田
ただ、遊べそうと思っても、手に取れないとね。そこらへん、ネット販売は難しいと思うんですけど。 パズルっていうものは。
えぢ
難しいとは思う。ここはこうやって遊べる場にしているけどね。
山田
そういう意味で、パズルを事業化するときに、イベントというのは入れたかったんですよね。
えぢ
なるほど。
山田
とにかく広め続けないと、自分たちが扱っている製品は伝わらないという思いがあって。からくり(創作研究会)も必ず両輪でやってるし、パズラボも遊ぶ場を常に提供する形でネット販売してる。傍から見てると、それがいいのかなと思いますね。
岩原
それと、今は小ロット生産もしやすくなってますし。
えぢ
こういうもの(3Dプリンター)を使えばね。今これやっている人は少ないけど、どんどん増えてくれば、ライバルも増えてくる。
岩原
金型を作らなくても、データさえ作れれば新しいものが作れるとなると、多品種つくっていく中で、その一部が量産品に移っていくことになりますよね。
山田
ただ、そこでネックになってくるのが、さらにロットを上げようとすると、企業なりに売り込んでいくステップがある。そこで、かなり時間を割かないといけない。
えぢ
まぁ、そうだね。
岩原
でも、売り込みのときに形ができあがっていれば、それで遊べるし、説得力もある。
山田
それは強いですよね。
岩原
単価で言えば、金型でつくるよりコストは上がっているのかもしれないけど、それは必要なぶんだけ乗せるよりしょうがないですよ。
山田
そこを、うまいことつなげていければ、いいなぁと。
岩原
今の値段だと、何万個でなくても、もっと少ない数で成り立つようにさえできれば続けていける、ということなんじゃないですかね。
山田
ぼくら、ASOBIDEAが生きていく道は、そこらへんなのかな。ネタを拾い出して、ユーザーまでつなげる。それはなるべく小ロットでなく、ある程度いいものを広める手伝いをして、お金をいただくと。
岩原
どっちですかね。(試作品を手に持って)ここまで持っていく段階と、ここから量産に持っていくという、二段階あるのかもしれない。
山田
その二段階は、もちろん同じ人がやってもいいと思うんですけど、周りのデザイナーを見てて、そこまで全部まわせる人っていうのは、いないんですよね。
おもちゃ会社の側から頑張って手を伸ばしてきてくれて、拾い上げて作ってくれる場合はあるし、ぼくもそうだった。ただ、それは稀なケースなんで、逆にこっちから手を伸ばして結びつける場ができれば、そのステップがトントン流れるのかなと。
えぢ
なるほど。
山田
たぶん、メーカーの人たちも面白いデザインを常に求めてるんですけど、自分たちの持つチャンネルに限界があって、調べ切れないですよね。それをつなぐ人が、ちょっとでもいれば。
岩原
うん。
山田
あそこに聞けば何か面白いネタがある、という立場にまでなれば、ぼくの夢はちょっと近づくかな。
岩原
たくさん拾い上げて、出すと。本当の量産よりは高い値段になるのかもしれないけど、それはしょうがない?
山田
それは、いいと思うんですよね。とにかく、価値ある質のものがここにあれば流せるし、それぞれの人がそれなりに生きていくだけのお金は出せると思う。
岩原
木製品の場合は、むしろ付けるために良い木を使ってみたり、寄木がそうですけど、模様を付けてみたりします。なくてもパズルは成り立つわけですけれども、細工を多くしたり、いろんなことをしてみるわけですよね。
山田
うん。
岩原
ただ、パズルのギミックだけでシンプルなものにすると、逆にプラスチックは難しいのかな。
山田
高級プラスチックで作りました、とは言えないですからね(笑)。まぁ、できて金属にするくらいですか。
えぢ
材質はね。けど、最近は3Dプリンターに「ウッディライク」というのがあって。
山田
はいはい、木の粉みたいな。
えぢ
まだ実物は見ていないけど、MDFみたいなものかと。で、どんどん質感が上がってくると、からくりも危ういよ(笑)。きちんと木目が再現されたりしたら……。
山田
(笑)
岩原
まぁ、家具なんかいっぱいありますからね。
えぢ
表面のプリントではね。
岩原
色もきれいだし、木目や導管(木の水分が通るところ)まで出てるし、重さも近い状態で合わせてあるとか。ちょっとキズがついて初めてプリントに気付いたとか、ありますからね。
(つづく)

えぢ ナガタ
2000年に「Pencil Case」でパズル作家としてデビューし、2008年より「パズラボ」をオープン。パズルを軸に多面的に活動中。

岩原 宏志
からくり箱の職人として、1999年より「からくり創作研究会」で活動中。独自の作風は国内のみならず海外でも評価されている。