その4 売りにくい商品

岩原
もっと昔、箱根は世界の木工の量産基地になっていて、大量生産していたんだけど、量産のものはプラスチック製品も広がって、アジア諸国でも木工が作られていくし、その技術も上がっていく。その中で日本の人件費が上がってくると、特殊化しないといけないという要請があったわけですよね。
えぢ
うん。
山田
なるほど。
岩原
職人自身が他でデザインされたものとか、昔と同じものばかり作っていたんじゃ飽きられちゃうし、仕事も作れない。だから、自分で仕事を作ることも含めて、デザインも自分たちでやると。
山田
その中の一つとして、からくりがあった。
それって、どれぐらいの割合なんですか、箱根の中で。
岩原
寄木だったり、ろくろだったり、いろいろ集合体なので、箱根細工でざっくり100人くらいという言い方をされます。からくりも、私たちのグループみたいな形は特殊ですけど、その他にはもっと量産型の、秘密箱とか組木とか、 デザインは同じだけど数は効率よく作るところもあって。
山田
それも含めて100人くらい?
岩原
私たちのグループだけで十数人いるから、全体では数十人くらいでしょう。でも、家族労働とかありますからね。奥さんが働いて、親戚が働いて、機械を使わない仕事を周りの人がやったりとか。
山田
けど、そういう職人の流れでパズルが加わったのとは、明らかに別ラインですよね、えぢさんとか。
えぢ
うん、まぁ。
岩原
でも、木工を勉強しなくても、すごい技術がたくさん出てきてるわけですよね。コストはだんだん下がって便利になって、複雑な形もできるとか、安定してできるとか。デザインさえできれば作ることに障害はなくなるなんて、 いい時代になってる。
山田
たしかに。
えぢ
そういえば最近、許可をもらって別の人のデザインを作ったり、それを売ったりもしてますよ。自分のものだけではなくて、面白いツールを使って他のデザインも結構やってる。
あとは、そうだなぁ、販路はもうちょっと広げられたらいいけど、どこかに卸すのは今のところコスト的に見合わないかな。これが広がると、もっと面白いかなと思うけど。
山田
販路を広げるには、原価というか、モノを仕上げるコストを下げないといけないですよね。
えぢ
あるいは、もうちょっと商品価値のあるものを作れればいいんだけど。
山田
価値って、パズルだと難しくないですか?
えぢ
まぁね(笑)。こういう普通のプラスチック製品だと思えば、木製品のようなバリューを付けにくい素材ではある。
岩原
価値を感じてもらいにくいのかな。
山田
よく聞くのは、たとえば(近くのパズルを手にとって)これはプラだけど、木のやつもあるじゃないですか。原価は知れてると言えば、知れてる。
岩原
うん。
山田
で、問題は、デザインの価値をどこまでお金に変えるのか。
デザインの価値って、結構お金に変えにくいですよね。
えぢ
うーん。
山田
からくりというか、木工の値段って、ちゃんと原価として出る気がするんだけど、デザインの価値はお客さん次第なのかな。そういう意味では自分の言い値なんで、いくらつけてもいいんですけど、そこらへんの調整をできなくて悩むことが結構多い気がする。
岩原
えぇと、その「デザイン」というのは、見た目を親しみやすくするとか、そういうこと?
山田
じゃなくて、ピースデザインのこと。
岩原
つまり、ギミックということかな。この形を使えば、ある程度むずかしくなるとか、解答が面白くなるとか。
山田
そう。そこがパズルデザイナーの根本というか、いちばん考えるところなんだけれども、お金の換算はしにくい。
えぢ
うーん。
岩原
ちゃんと理解しないと評価されないですよね。一般の人がそこまでやってくれるのかというと、難しい。
山田
そこらへんは工夫しないと。
岩原
パッと見で、そこまで練られていないものと、一般の人は区別がつかないですよね。
山田
つかない。
岩原
適当に作られたものと同じと思われちゃったら、ねぇ。
でも、これはノウハウが詰まっているわけですよね。ユニーク解(答えが一つだけ)とか、程よいピースの数でとか。
山田
そこらへん、難しいですよね。極端な話、小さければ安いだろうという言われ方をしても、はぁ……としか言えない(笑)。たしかに、そのとおりなんですけども。
えぢ
パズルって、売りにくい商品ではあるよね(笑)。まず、パッと見て、これが面白いのかどうかわからないし、これ解いたことがあるよ、っていう人は買わないかもしれない。
買う方もリスクが大きいよね。
山田
あと、よくあるのが、これ知ってるー、いらんという(笑)。
えぢ
でも、人によってはね、これは自分で解いて面白いから、誰かにやらせよう、っていう別の目的で買う人もいる。買う人も色々だなぁ。
一同
(笑)
えぢ
サンプルで遊んでみて、解けて買う人、解けて買わない人、解けないから買う人、解けないから買わない人?……どうかな、買わないかな。
山田
解けたから買わない人と、解けたから買う人。これがデザインの面では相反するんで、どっちかを選ばないと。つまり、易しく作ると解ける率は上がって、そうでないと……あれ、どっちや、解けなければ……あぁ、わからんようになってきた(笑)。
えぢ
もう、図に描かないとわかんない(笑)。
山田
でも、どうデザインするかっていうのは、実は何だかわかんないですよね。
えぢ
うーん。
山田
まぁ言い値だから、パズルの価値をあげていったらいいのかな。乱暴で失礼な言い方かもしれないけど、五万円と言っても買う人は買うんで。
えぢ
まぁ、そういう現実はある。
山田
たとえば五千円ではペイしないものがあって、それにはペイする値段をつけるんですけど、値段ていうのは何だろう。どこを評価してもらってるんだろうな。
岩原
言葉で表現するのは難しそうですよね。
パズルが大好きとは限らない一般の人だと、遊びやすさだったり、うまく解けると感動があるとか、なんか程よいところを提供するものがいいのかな。
(つづく)

えぢ ナガタ
2000年に「Pencil Case」でパズル作家としてデビューし、2008年より「パズラボ」をオープン。パズルを軸に多面的に活動中。

岩原 宏志
からくり箱の職人として、1999年より「からくり創作研究会」で活動中。独自の作風は国内のみならず海外でも評価されている。