- 岩原
- もっと昔、箱根は世界の木工の量産基地になっていて、大量生産していたんだけど、量産のものはプラスチック製品も広がって、アジア諸国でも木工が作られていくし、その技術も上がっていく。その中で日本の人件費が上がってくると、特殊化しないといけないという要請があったわけですよね。
- えぢ
- うん。
- 山田
- なるほど。
- 岩原
- 職人自身が他でデザインされたものとか、昔と同じものばかり作っていたんじゃ飽きられちゃうし、仕事も作れない。だから、自分で仕事を作ることも含めて、デザインも自分たちでやると。
- 山田
- その中の一つとして、からくりがあった。
それって、どれぐらいの割合なんですか、箱根の中で。 - 岩原
- 寄木だったり、ろくろだったり、いろいろ集合体なので、箱根細工でざっくり100人くらいという言い方をされます。からくりも、私たちのグループみたいな形は特殊ですけど、その他にはもっと量産型の、秘密箱とか組木とか、 デザインは同じだけど数は効率よく作るところもあって。
- 山田
- それも含めて100人くらい?
- 岩原
- 私たちのグループだけで十数人いるから、全体では数十人くらいでしょう。でも、家族労働とかありますからね。奥さんが働いて、親戚が働いて、機械を使わない仕事を周りの人がやったりとか。
- 山田
- けど、そういう職人の流れでパズルが加わったのとは、明らかに別ラインですよね、えぢさんとか。
- えぢ
- うん、まぁ。
- 岩原
- でも、木工を勉強しなくても、すごい技術がたくさん出てきてるわけですよね。コストはだんだん下がって便利になって、複雑な形もできるとか、安定してできるとか。デザインさえできれば作ることに障害はなくなるなんて、 いい時代になってる。
- 山田
- たしかに。
- えぢ
- そういえば最近、許可をもらって別の人のデザインを作ったり、それを売ったりもしてますよ。自分のものだけではなくて、面白いツールを使って他のデザインも結構やってる。
あとは、そうだなぁ、販路はもうちょっと広げられたらいいけど、どこかに卸すのは今のところコスト的に見合わないかな。これが広がると、もっと面白いかなと思うけど。 - 山田
- 販路を広げるには、原価というか、モノを仕上げるコストを下げないといけないですよね。
- えぢ
- あるいは、もうちょっと商品価値のあるものを作れればいいんだけど。
- 山田
- 価値って、パズルだと難しくないですか?
- えぢ
- まぁね(笑)。こういう普通のプラスチック製品だと思えば、木製品のようなバリューを付けにくい素材ではある。
- 岩原
- 価値を感じてもらいにくいのかな。
- 山田
- よく聞くのは、たとえば(近くのパズルを手にとって)これはプラだけど、木のやつもあるじゃないですか。原価は知れてると言えば、知れてる。
- 岩原
- うん。
- 山田
- で、問題は、デザインの価値をどこまでお金に変えるのか。
デザインの価値って、結構お金に変えにくいですよね。 - えぢ
- うーん。
- 山田
- からくりというか、木工の値段って、ちゃんと原価として出る気がするんだけど、デザインの価値はお客さん次第なのかな。そういう意味では自分の言い値なんで、いくらつけてもいいんですけど、そこらへんの調整をできなくて悩むことが結構多い気がする。
- 岩原
- えぇと、その「デザイン」というのは、見た目を親しみやすくするとか、そういうこと?
- 山田
- じゃなくて、ピースデザインのこと。
- 岩原
- つまり、ギミックということかな。この形を使えば、ある程度むずかしくなるとか、解答が面白くなるとか。
- 山田
- そう。そこがパズルデザイナーの根本というか、いちばん考えるところなんだけれども、お金の換算はしにくい。
- えぢ
- うーん。
- 岩原
- ちゃんと理解しないと評価されないですよね。一般の人がそこまでやってくれるのかというと、難しい。
- 山田
- そこらへんは工夫しないと。
- 岩原
- パッと見で、そこまで練られていないものと、一般の人は区別がつかないですよね。
- 山田
- つかない。
- 岩原
- 適当に作られたものと同じと思われちゃったら、ねぇ。
でも、これはノウハウが詰まっているわけですよね。ユニーク解(答えが一つだけ)とか、程よいピースの数でとか。 - 山田
- そこらへん、難しいですよね。極端な話、小さければ安いだろうという言われ方をしても、はぁ……としか言えない(笑)。たしかに、そのとおりなんですけども。
- えぢ
- パズルって、売りにくい商品ではあるよね(笑)。まず、パッと見て、これが面白いのかどうかわからないし、これ解いたことがあるよ、っていう人は買わないかもしれない。
買う方もリスクが大きいよね。 - 山田
- あと、よくあるのが、これ知ってるー、いらんという(笑)。
- えぢ
- でも、人によってはね、これは自分で解いて面白いから、誰かにやらせよう、っていう別の目的で買う人もいる。買う人も色々だなぁ。
- 一同
- (笑)
- えぢ
- サンプルで遊んでみて、解けて買う人、解けて買わない人、解けないから買う人、解けないから買わない人?……どうかな、買わないかな。
- 山田
- 解けたから買わない人と、解けたから買う人。これがデザインの面では相反するんで、どっちかを選ばないと。つまり、易しく作ると解ける率は上がって、そうでないと……あれ、どっちや、解けなければ……あぁ、わからんようになってきた(笑)。
- えぢ
- もう、図に描かないとわかんない(笑)。
- 山田
- でも、どうデザインするかっていうのは、実は何だかわかんないですよね。
- えぢ
- うーん。
- 山田
- まぁ言い値だから、パズルの価値をあげていったらいいのかな。乱暴で失礼な言い方かもしれないけど、五万円と言っても買う人は買うんで。
- えぢ
- まぁ、そういう現実はある。
- 山田
- たとえば五千円ではペイしないものがあって、それにはペイする値段をつけるんですけど、値段ていうのは何だろう。どこを評価してもらってるんだろうな。
- 岩原
- 言葉で表現するのは難しそうですよね。
パズルが大好きとは限らない一般の人だと、遊びやすさだったり、うまく解けると感動があるとか、なんか程よいところを提供するものがいいのかな。
2014.5.3
(つづく)