凧とパズルと判じもん

岩瀬 尚行
学校教諭を経て、2001年に京都でパズル工房「葉樹林」をスタート。立体パズルを創作・販売するかたわら、パズルの楽しさを広める活動を続けている。

鳥居 勝久
滋賀県東近江市にある、世界凧博物館 東近江大凧会館の学芸員。凧に関するイベントの企画・運営に加え、さまざまな展示会の仕掛人としても活躍している。

1 ネーミングから始まる

カラッと晴れて、まだ心地よい朝の空気を感じるころ。到着して大凧会館に入ろうとしたら、正面のパネルに「百畳大凧」の文字が見えました。

館内に入って、開催中だったパズルの展示を見ていると、いつも目に入ってくるものが。そう、あの百畳の大凧です。とにかく巨大で、ものすごい存在感。

さて、私たちは久々に再会した大凧会館の方々とご挨拶を終え、学芸員の鳥居さんと一緒に事務室へ。すると、その一角に、たくさん並べられているものを発見。これは?

────
すごい数のピンバッジですね。
鳥居
昔から、凧の大会があるときには、仲間どうしでピンの交換をするんですよ。
自分たちのオリジナルのピンをプレゼントして、また向こうのピンも、もらってくる。ピンを持ってないところは別ですけど、挨拶がわりのようなものです。
────
そんな習慣があるんですか。
鳥居
印刷しているものもありますけど、中には自分で作る人もいますよ。わざわざ彫っている人もいるんです。凧という字を。
────
ひえー、すごい。これって、大凧の関係だけではないんですよね?
鳥居
はい。ここには、凧のグループのピンもあるし、伝統的な凧のピンもあるし、大会記念のものもあります。凧揚げ大会にはつきもので、そこの主催者が作っているのが、ほとんどなんです。
岩瀬
(ピンを見つけて)ねえ、これ。京都のマッドハッターズ、って何?
鳥居
「マッドハッターズ・カイトクラブ」という団体が京都にあるんですよ。
────
マッドハッターって、『不思議の国のアリス』に出てくる、あの帽子屋ですよね。
岩瀬
あぁ、はいはい。
鳥居
そういうクラブチームなんです。
岩瀬
いやぁ、「マッドハッター」なんていう凧があるのかと思った。
一同
(笑)
────
ところで、今日はASOBIDEAのスタッフとして来ていますけど、一般人の感覚では、なぜ大凧会館でパズルなの? という疑問が出てくると思うんです。そこをお聞きしたいなと。
鳥居
まず、大凧会館は平成3年にオープンして、凧の専門の博物館ということで、日本と世界の凧を収集して、展示してきました。
年間を通じて企画展をやっているんですが、ここには特別なスペースがないので、通常の展示室を使うことになります。
────
はい。
鳥居
最初は、ずっと凧をメインにしてきました。
それこそ、各地方の凧を展示していけば成立するんですが、凧って、けっこうマニアックな世界なので、いろいろな人に来てもらうのには限界があります。
それで、いろいろアイデアを出しながら、ネーミングを付けていたんですよ。
────
ネーミング?
鳥居
たとえば、東北の凧を一回展示したんですけども、「東北の凧」展というのは、なんのこっちゃ分からない。
────
まぁ、直球ですよね。
鳥居
それなら「松尾芭蕉が歩いた『奥の細道』の凧」展というネーミングにしてみたり、「武者絵」展というのを「戦国の武将」展にしたり。
そうやってネーミングをアレンジしながら凧を展示して、いろんな人を紹介していた時代もあるんです。
────
そうでしたか。
鳥居
もちろん、凧の展示会というのは、今でもやってます。やってますけども、凧以外のものを紹介しても良いんじゃないか、という話になったんです。
ただ、全然かけ離れたものを取り上げるわけにはいかないですよね。ここで油絵を展示するとか、あんまり関係ないものは。
────
たしかに。
鳥居
それで、一つは凧に関係するものとして、竹とか、紙とか、風とか、玩具とか、そういう部類でやりましょう、と。
そして、とくに夏休みは、子供さんが楽しめるものはどうか、という考えがあったんですね。
岩瀬
そうそう。
鳥居
そんな中で、パズルをやるまでにいくつかあったんですよ。もう、パズルは過去に三回お願いしてますけど(笑)、それ以外には「うちわ」とか。
────
うちわ?
鳥居
風を起こすのと、竹ということで。他には、竹でも煤竹(すすだけ)というのがあって、これで昆虫を作っている人とか、お面もやりました。お面といっても、玩具のものもあれば、専門的なものもあるので、それも加えて。
────
なるほど。
鳥居
で、パズルのきっかけは、たまたま朝日新聞だったと思うんですよ。そこに岩瀬さんが紹介されていたんです。
岩瀬
京都新聞じゃなかった?
鳥居
えぇっと……
(つづく)