今回から言葉遊びを離れ、絵にトリックのある本、その中でも「穴あき絵本」と呼ばれるものをいくつかご紹介します。
まずは、絵本作家としては大御所の五味太郎さんによる『きいろいのは ちょうちょ』。
表紙にも描かれていますが、絵本は男の子が「きいろいちょうちょ」を見つけて追いかけるところから始まります。「きいろいのは ちょうちょ…… きいろいのは ちょうちょ……」と。そして次のページをめくると、「あれ ちょうちょ じゃない」。黄色いちょうちょと思ったものは、黄色い花だったようです。
また「きいろいのは ちょうちょ…… きいろいのは ちょうちょ…… あれ ちょうちょ じゃない」と、次は黄色いボールだったようです。こんな感じで、ヒヨコだったり、ヘルメットだったり、信号だったり、オムライスだったり……。何度も何度も期待を裏切られてしまいます。
仕掛けはシンプルで、見開きの右ページにちょうちょの形をした穴が開いていて、そこから黄色い何かの一部が見えています。派手な仕掛けではないですが、全編にわたって同じように続く仕掛けの面白みが、読み進めていくにつれじわじわと深まってきます。それに加え、五味太郎さんの味わいのある絵と、「きいろいのは……」とリズムのある言葉で綴られるストーリーには、大人でも引き込まれてしまいます。
さらに、ページをめくると、先ほどのちょうちょの穴が、見開きの左ページでは違うものへと変わっています。豚の鼻だったり、花だったり、サングラスだったり。あまりにも自然に変化するため、少し気付きにくいのですが、ここに注目するのも楽しみ方のひとつです。途中に工事現場のくだりがあるのですが、ここのアレンジは特に味わい深かったりします。
実は、この『きいろいのは ちょうちょ』、「五味太郎しかけ絵本」というシリーズの一作目で、二作目は『とうさん まいご』というものです。
デパートでお父さんと離れてしまい、迷子になった男の子。この子がお父さんを探しまわります。
ここでの仕掛けは、『きいろいのは ちょうちょ』と違って穴ではなく、ページの切り抜きです。たとえば、棚の後ろにお父さんの帽子が見える。でも、棚をめくると……マネキンだったり。あるときは、ピアノの下からお父さんの靴が見える。でも、ピアノをめくると……違う人だったり。最後のページでは、文字まで仕掛けにとりこんでいて、二重に楽しめます。
シリーズ三作目は『まどから おくりもの』。サンタクロースがヘリコプターで登場して、みんなのおうちへプレゼントを届けます。
窓から見えている住人の姿を見てプレゼントを入れるのですが、勘違いの連続。ページをめくって窓を開けると、サンタクロースの推測とはまったく違う住人の姿を見ることができます。各ページに窓の形の穴が開いているシンプルな仕掛けです。
これらのシリーズ三部作は海外でも人気のようで、『きいろいのは ちょうちょ』は韓国で、『とうさん まいご』はアメリカ・韓国で、『まどから おくりもの』はアメリカ・フランス・韓国・台湾・オランダでも出版されています。
今回はここまで。五味さんは「絵本は子供だけのものじゃない」と言います。特に今回ご紹介したような仕掛け絵本は、世代に応じて様々な楽しみ方が出来るのではないでしょうか。次回も引き続き、穴あき絵本を紹介する予定です。