石川県の金沢駅から車で40分ほど。穏やかで見晴らしのいい高台に、北陸先端科学技術大学院大学があります。
略称はJAIST。
ここに、パズルの一大コレクションが集まりました。その数、およそ一万点。これを収集した芦ヶ原伸之さん(1936年~2004年)はパズル作家・コレクターとして国内外で活躍し、NOBの愛称で知られていました。
2012年から、そのコレクションの一部が大学内の「JAISTギャラリー」で展示されています。
ちなみに、ASOBIDEAでもJAISTギャラリーに向けた紙折りパズルを何度か担当していて、このギャラリーの動向にも関心を持ってきました。
その中心人物となっているのが、JAISTの上原隆平さん。数理科学の分野で研究を続けながら、折り紙やパズルにも興味を持っていて、最近では両方の分野で幅広く活躍されています。
さて、そのギャラリーのオープンから数年。現在はギャラリー長となった上原さんに、あらためて今までの活動やJAISTギャラリーのことをお聞きしたい。そう考えて、JAISTに足を運びました。
現地に着くなり、ASOBIDEA代表の山田と、しばしの歓談。実はこの二人、以前からパズルを通じての知り合いなのです。
せっかくなので、ギャラリー併設のプレイスペースへ移動することにしました。二人に追いつくと、いつの間にか対談が始まっていて……。
担当はASOBIDEAの佐藤です。(この対談は2015年6月に収録しました)
1 研究もパズルも折り紙も同じだ
- 上原
- まぁ、俺の中で折り紙もパズルもそんなに違わないんです。雰囲気にてるでしょ、たぶん。
- 山田
- たしかに、紙のパズルって、結果的に折り紙へ寄っていくんですよね。
- 上原
- うん。あと、日本人が「折り紙」というときに抱くイメージと、海外の人が抱くイメージって、だいぶ違うよね。
向こうの人は、紙を折るパズルも「折り紙だ」って言うと思う。
- ――――
- まぁ、実際に折ってますしね。
- 上原
- そうそう。とにかく何か折れば、彼らは「折り紙だ!」って思うみたい(笑)。
- 山田
- ははは。
- ――――
- 日本人が折り紙って言うときは、結果の方を見ていて……
- 上原
- あっ!
- ――――
- 海外の人はプロセスを見ている気がしますね。
- 上原
- なるほど、そうかもしれない。それに、幼稚園で習ったきりの人が多いから。
俺の友達に「大学で折り紙の研究をしてます」って言うと、カルチャースクールの先生っていう雰囲気になっちゃうらしい。
- 山田
- (笑)
- 上原
- 太陽電池パネルだとか、いろんな応用を話して、やっと納得してもらえる。まぁ、そういうところがあるみたい。
パズルっていうと、一般の人は何をイメージするのかなぁ? ジグソーパズルかな。
- 山田
- あとは、ルービックキューブですかね。最近は知恵の輪とかもあるけど、そのイメージも微妙で……
- 上原
- そうかぁ。それに、ジグソーパズルはパズルかどうか、微妙なところもあるよね。あんまり数理的なフレーバーもないし、アルゴリズム的なナントカってのもないし。
- 山田
- たしかに。
- 上原
- 絵を合わせているだけだもんね。それか、形か。
- 山田
- JAISTとしてはアルゴリズム的な側面があると良いんですよね?
- 上原
- うん。それはそうなんだけど、個人的には、研究もパズルも折り紙も同じだと思っているから。
やっぱり、さっきの話で、自分はプロセスとかアルゴリズムに興味があるんだろうね。
- ――――
- やり方に興味があると。
- 上原
- そうそう。
たとえば、「川崎ローズ」という折り紙があるんだけど、その川崎さんって、数学者なんだよね。彼と話していたら「折り方なんて、はっきり言ってどうでも良いんだよ」と言ってて、出来上がりにしか興味がなかった。
それを聞いて、そうじゃないんじゃないかなと思ったわけ。それから何年かして、「ジャバラ折りを速く折るアルゴリズム」っていう論文を書いたことがあるんだよ。
- 山田
- へぇー。
- 上原
- それは、ジャバラ折りに限らない。「山・山・谷・谷」というパターンでもいいんだけど、ある山・谷の文字列に対して、それを折るための最短手数っていうのがあるはずでしょ。
- 山田
- ええ。
- 上原
- そのアルゴリズムを考えて、海外のエリック・ドメイン*たちと英文を書いて、結局は「Folding Complexity――折りの複雑性」っていうタイトルにしたわけ。
- * エリック・ドメイン(Eric Demaine) …… アメリカのMITでコンピューターサイエンスを研究している。パズルや折り紙にも造詣が深い。
- 上原
- つまり、折りのパターンが与えられたら、それを折り出すための複雑性みたいなものを議論したんです。やっぱり、そこに興味があるんだろうな。
- (つづく)
2016.8.4
上原 隆平(北陸先端科学技術大学院大学 情報科学系 教授)
キヤノン(株)、東京女子大学、駒沢大学を経て現在の職場へ来て12年。専門は理論計算機科学、特にアルゴリズムや計算量。パズルや折り紙の難しさを理論計算機科学の観点から研究している。
→ 上原さんのウェブサイト
山田 力志(ASOBIDEA 代表・パズルコーディネーター)
名古屋大学教員を経て、ASOBIDEAを設立。生物学の研究者の顔を持ちながら、パズル創作から映画脚本まで手がけるクリエーターでもある。
→ 個人のウェブサイト