プロセスに興味あり

2 そんなに区別がなくて

山田
上原さんって、もともとパズルから始まってませんか? どちらかというと、折り紙の外側から来ている感じがするんですよ。
上原
あぁ、たしかに。まずパズルからだね。
山田
その接点は、どんな感じなんですか? 研究とパズル、もしくは研究と折り紙との接点。
上原
パズルは昔からやっていて、実は大学4年のときにパズルで論文を書いてる。題材はペグ・ソリティア*なんだけど、それが初めての論文なんですよ。
* ペグ・ソリティア …… ボードに並べてあるコマを順に取り除いていくパズルのこと。
山田
なんだ、最初から。
上原
そう、最初からパズルやってんの。
山田
本人的には違和感がない(笑)。
山田
それは、どんな研究室でやっていたんですか?
上原
基本的にはアルゴリズム。しかも、ある日ぼくの指導教官の友達の先生がペグ・ソリティアの難しさについて話してて、そこに割り込んだみたいな感じ。結局、その先生と論文を書いて、指導教官とは一本も論文を書かなかった。
山田
ははは。
上原
そういうことに、こだわらない人だったからね。まぁ、二年ぐらい前に引退しちゃったし、もう書かないんだろうけど。
でね、折り紙をやったきっかけは……
山田
なんでしょう。
上原
アメリカにいるドイツ人の友達のところへ遊びに行ったとき、そこに飛び出す絵本があったんですよ。
山田
ロバート・サブダの?
上原
そう。それを見た、うちの妻が感激して、これはすごい!って言ってね。
山田
いつぐらいの話ですか?
上原
1998年くらいかな。JAISTに来たばっかりだから十年くらい前……いや、それなら2004年ぐらいか。
それで、ロバート・サブダの本を買ってみたら、あれすごい複雑で難しいじゃない? ほとんどオートマタじゃない?
一同
(笑)
上原
これ難しいよなぁ、と思ったわけ。それで「飛び出す絵本は難しい」っていう論文を書いたんですよ。
山田
わはは(笑)。
上原
それはね、命題論理式というものを、飛び出す絵本の仕掛けのような形に置き換える。それを本にバフッとはさんで、その本を開くためには論理式を解かなきゃいけない、っていう論文。
それを書いたのは良いんだけど、どこに出そうかと調べていたら、折り紙の国際会議を見つけた。
山田
おぉ。
上原
そこに、エリック・ドメインが参加してるのを見て、これなら大丈夫だろうと思って申し込んだのが、最初のとき。
山田
なるほど。
上原
それとは別の話もあってね。あるコンピューター会議で、最近は大人でも折れない折り紙があると言われて、そのとき教えてもらったのが「川崎ローズ」と「前川デビル」だった。*
* この二つの作品について、上原さん自身は「折り紙とコンピュータサイエンス」という文章を書いている。
山田
今となっては、超有名どころ。
上原
当時は折り方の本なんて手に入らなくてね。結局、東京の白山にある「おりがみはうす」というところへ行ったんです。折図が載っている「折紙探偵団」という本を探しに。
そこで直接きいてみたら「あぁ、ありますよ」って、奥から親切に出して来てくれた。あれが最後の数冊だったと思うな。
山田
ネットには出してなかったんですね。
上原
うん。そのおかげで「悪魔」を折って、川崎ローズは別の本を買って折れるようになったりして。だから、前川さんと川崎さんを、かろうじて名前だけ知っていた感じだったんだけど、国際会議でお二人に会ったら、そこでグッと折り紙の人たちが広がってしまった。それで、折り紙の会議に定期的に出るようになったんです。
山田
なるほどね。
上原
そのあと、「複数の箱が折れる展開図」というのを折り紙の会議で発表したら、その場にいた人にスカウトされて、パズル懇話会というところに……
山田
引きずり込まれた(笑)。だから、あの展開図はパズルと出会う前の作品なんですね。
上原
そうなんだよ。
山田
まぁ、その人はパズルのにおいを感じたんでしょうね。折り紙を見に行ったのに、えらいパズルっぽいなぁって(笑)。
上原
でもね、パズル懇話会っていう名前は昔から知ってた。やっぱり本はいろいろ読んでいたから。
山田
やっぱり。
上原
大学生のとき、となりの研究室に池野信一という先生がいたわけ。パズル懇話会のベテランだったらしいんだけど、その人のゼミで英語の論文を輪読するものがあって、池野先生は毎回パズルを持ってきては我々にやらせてた。
僕はね、わりと毎回それを撃破してたのよ。
山田
おぉ。
上原
もうちょっと進んでたら、学生の頃からパズル懇話会に入っていたかもしれない。危なかったね。
一同
(笑)
上原
ただ、池野先生は僕が学部生のとき亡くなったんで、もっと突っ込んだ話をする前のニアミスでした。
山田
だんだん、折り紙とパズル、両方になってきた。
上原
僕の中では、その二つはそんなに区別がなくて、どっちも同じようなもんだね。なんか似てるんだよ。
山田
折り紙とパズルが。
上原
うん。そして、たぶんプロセスに興味がある。解法っていうか、アルゴリズムに興味があるんだろうなぁ。これもコンピューターサイエンスの枠組みだと思うから。
山田
どんな研究をしているか学術的に聞かれたら、それはコンピューターサイエンスなんだと。
上原
その応用として折り紙やパズルをやってます、と言うのが一番正しいんだと思う。だけど、普通の人は「ん?」っていう反応になるけどね。
(つづく)

上原 隆平(北陸先端科学技術大学院大学 情報科学系 教授)
キヤノン(株)、東京女子大学、駒沢大学を経て現在の職場へ来て12年。専門は理論計算機科学、特にアルゴリズムや計算量。パズルや折り紙の難しさを理論計算機科学の観点から研究している。

上原さんのウェブサイト

山田 力志(ASOBIDEA 代表・パズルコーディネーター)
名古屋大学教員を経て、ASOBIDEAを設立。生物学の研究者の顔を持ちながら、パズル創作から映画脚本まで手がけるクリエーターでもある。

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