プロセスに興味あり

3 どっちかっていうとスロースターター

山田
結局、芦ヶ原さんとは直接会ってないんですよね。
上原
そうなんです。会わずじまいになってしまって、とても残念でした。けっこう芦ヶ原さんが書いたものは昔から読んでいてね。ニコリの「病棟日誌」*とか。
* 病棟日誌 …… 1987年から2004年まで、芦ヶ原氏は「パズル病棟日誌」という連載を担当していた。のちに、その総集編が『パズルの宣教師』として書籍化されている。
山田
あとはクォーク*の連載とか。あれは途中で止まったけど。
* クォーク …… 講談社が発行していた科学雑誌。1997年に休刊した。
上原
クォークはね、パラパラっと見てたぐらい。
山田
僕なんか、たぶんクォークから入っていて、ニコリも読んでいたから、その二冊ですね。
やっぱり、彼の書きものの力は、少なくとも当時は大きかったです。ネットにも何もなかった時代なんで。
上原
あの『究極のパズル』だっけ、クォークの別冊。あれは普通に自分で買っていて、熟読してた。
山田
(横を向いて)あれって、いつごろ出たんだっけ?
――――
80年代後半でしたかね。
上原
それくらいだと思う。そこに自分で新刊として買ったものがあるけど、けっこう普通の本として持ってたな。
山田
僕は中高のときからクォークを知ってたんだけど、まだ読んでも分からなかった。それで、大学生のころに図書館で順番に借りていって、ちょっとずつコピーして持っていたんです。
上原
それって、今でも持ってるの?
山田
はい、持ってますよ。それをキッカケに、葉樹林の岩瀬さんと知り合った。
上原
へぇー。
山田
ちょうど大学二年のときに「ストーミー・シーズ」っていうパズルが出たんですよ。
そのころ、芦ヶ原さんが主宰していたメーリングリストに入っていて、あるとき「ストーミー・シーズが出たから欲しい人は言ってね」というメールが流れてきた。そのときは京都にいて「欲しいな」って返信したら、岩瀬さんという人から「京都にもあるよ」って。
上原
あ、そうなんだ。
山田
ファックスでやり取りしているうちに、会いに行くことになって。そこに手ぶらじゃなんだから、クォークのコピーを四冊分くらいにまとめて持って行ったんです。そしたら、岩瀬さんにつかまった(笑)。
上原
ははは。
山田
しかも、その週に関西ぱずる会の集まりが偶然あって、大学生は暇だから、そのまま連れて行かれたんです。
上原
なるほど(笑)。
山田
その年、神戸の青少年科学館で、けっこう大がかりなパズル展をやることになったんです。それに関西ぱずる会が協力してたんですけど、コレクションの提供で芦ヶ原さんが協力していて、彼も来たんですよ。
僕は、たまたま直前に関西ぱずる会に入って、展示にも行くようにもなって、あれよあれよという間に芦ヶ原さんと会うことになったんです。これが二ヶ月ぐらいの話。
上原
あらら。
山田
その前後に別のパズル家とも会っていて、たぶん、すごい勢いでパズルに引きずり込まれていました(笑)。
上原
へぇー。
山田
幸いなことに、芦ヶ原さんには気に入ってもらえたみたいで、何かあるたび世話になってたんです。けっこう急速でした。
上原
どっちかっていうと、僕はスロースターターだね。京都で国際会議があって、そこに来ていたエリック・ドメインが「京都でどこかパズル屋さんに行きたい」って言い出したわけ。
それで、学生をつかまえて聞いたら、そいつが葉樹林のことを知ってて教えてくれたんだよね。
山田
あぁ、なるほど。
上原
葉樹林に着いてワーワーやってたら、和尚さん*に「この人もしかしてエリック・ドメインさん?」って声かけられたから「そうです」って(笑)。それが最初だったな。
* 和尚さん …… 葉樹林の岩瀬さんのニックネーム。
山田
意外なところでつながっているんですね。
(つづく)

上原 隆平(北陸先端科学技術大学院大学 情報科学系 教授)
キヤノン(株)、東京女子大学、駒沢大学を経て現在の職場へ来て12年。専門は理論計算機科学、特にアルゴリズムや計算量。パズルや折り紙の難しさを理論計算機科学の観点から研究している。

上原さんのウェブサイト

山田 力志(ASOBIDEA 代表・パズルコーディネーター)
名古屋大学教員を経て、ASOBIDEAを設立。生物学の研究者の顔を持ちながら、パズル創作から映画脚本まで手がけるクリエーターでもある。

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