4 ギャラリー自体をパズルにする構想
- 山田
- で、そろそろギャラリーに話を戻した方が良いかな。
- 上原
- そうだ(笑)。
- ――――
- まぁ、こうしてJAISTギャラリーができましたけど、いきなり話が来るわけではないと思いますので、そのきっかけを知りたいところですが……
- 上原
- これね、僕が何か直接やったわけではないんです。國藤先生って方がいて、その人から「NOBコレクションが宙に浮いてる」って話があったんだ。
- 山田
- うんうん。
- 上原
- なんか、太極拳サークルの知り合いがNOBコレクションの話を聞いて、それを國藤先生に伝えて、それでどうしようかって思ったみたい。
- 山田
- へぇー。
- 上原
- JAISTに戻ってきて、「うちの大学に、そういうことやっている人はいるの?」っていう話の流れで、ぼくのところに回ってきちゃった。
- 山田
- (笑)
- 上原
- あと、飯田先生っていう、元プロ棋士の方がいるんだけどね。
- 山田
- はい。
- 上原
- その飯田先生と、現学長の浅野先生と、僕のところへ話が来たとき、「こういうものをもらうと大変ですよね」って飯田先生が言ってた。
- ――――
- 最初は、ちょっと否定的だったと。
- 上原
- そう(笑)。
浅野先生も、どうしよう? という感じだったんだけど、ぼくが「いいですね、もらいましょうよ!」って言ったの。
- 山田
- ははは(笑)。
- 上原
- そうしたら、飯田先生と浅野先生が「じゃあ、そうしよう」って言ってくれた。
もし、あそこでNOと言ったら、ぽしゃってたと思うな。
- 山田
- それ、いつごろの話ですか?
- 上原
- このギャラリーができる数年前。
いま、うちの大学は25周年くらいなんだけど、そのとき20周年記念事業っていうのをやってたんですよ。その一環として、研究成果を展示するミュージアムを作ろうとしてたんだよね。そこにパズルの話が来たんで、ガッチャンコしてしまったみたいです。
- ――――
- あぁ、なるほど。
- 上原
- ギャラリーのいちばん奥に研究成果の展示があるでしょ。あれが本当は、たぶんメイン。
- 山田
- スタートの構想は、あの展示だった。
- 上原
- そうそう。もともと國藤先生は知識科学研究科というところで、地元との産学連携をやっている方なんですよ。それで、このギャラリーを作るにあたって、地元の建築家やデザイナーで若手の人を探してきたところ、松田達さんという方がいて。
- 山田
- はいはい。
- 上原
- 松田さんが来たときに「パズルってことで、何か良い知恵はないですか」って言われたの。それで、バーツールズ*を教えてあげたんですよ。
- * バーツールズ(BurrTools) …… アンドレアス・ローバー(Andreas Röver)氏が開発した、パズルを解析するためのソフト。英語版だが、無料で公開していて、自由に使えるようになっている。
- 山田
- ははは(笑)。
- 上原
- そしたら、ギャラリー自体をパズルにする構想が生まれたみたい。
- 山田
- なるほど。
- 上原
- それで、Nペンタキューブ*を解析して8×9×10の直方体に組んだわけ。最初はキューブに組もうと思ったけど、数が合わなくて、一個だけ出っ張らせるアイデアもあったらしい。
- * Nペンタキューブ …… 五個の立方体をつなげたものの一種。アルファベットのNに見立てたことから、その名が付いている。
- ――――
- このNを選んだっていうのは……
- 上原
- NOBさんのN。
- 山田
- それは後付けじゃなくて?
- 上原
- うん、最初からNをベースにやりたかったみたい。どうも、ペントミノを調べている間に、ピースに名前が付いているのを知ったらしいね。
- 山田
- 面白いです。
- 上原
- その松田さん、この辺の事務所だったんだけど、けっこう偉い人で、建築科の先生になったみたいよ。
なんか、チャレンジングだなって思った。最初の絵とかアイデアとか聞いたときに、すごいチャレンジングだったからね。
- 山田
- ここができる前におじゃましたとき、ラフのデッサンを見たんですよ。それが、これ、どう展示すんねん、みたいな内容だった。
- 上原
- そうそう(笑)。最初は置き場所をどうするかが難問でね。図書館を改築するとか、食堂がどうとか、いくつか案はあったんだけど、結局ここに置いたわけ。
- ――――
- もともと、ここには何も無かったんですよね?
- 上原
- うん、ここは玄関のフロアーって呼ばれていて、空いてたんだよね。それこそ、階段があるだけだった。
- 山田
- そのころ指揮されていたのは、どなたなんですか?
- 上原
- 僕も加担はしてたけど、そのころも國藤先生。親分っぽい人で、もともと人工知能とかの研究をしていて、若いころは知恵の輪を解くプログラムを作ってたらしいよ。
- 山田
- 本人も、かなり好きなんだ(笑)。コンピューター系の人で、ちょっとパズルが好きって人は多いですからね。
- 上原
- 多い多い。
- 山田
- パズルの要素があるんでしょう。プログラムを作る段階で、パズルに触れているのかもしれない。
- (つづく)
2016.8.24
上原 隆平(北陸先端科学技術大学院大学 情報科学系 教授)
キヤノン(株)、東京女子大学、駒沢大学を経て現在の職場へ来て12年。専門は理論計算機科学、特にアルゴリズムや計算量。パズルや折り紙の難しさを理論計算機科学の観点から研究している。
→ 上原さんのウェブサイト
山田 力志(ASOBIDEA 代表・パズルコーディネーター)
名古屋大学教員を経て、ASOBIDEAを設立。生物学の研究者の顔を持ちながら、パズル創作から映画脚本まで手がけるクリエーターでもある。
→ 個人のウェブサイト