プロセスに興味あり

5 コレクターになりきれてない

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ちょっと話が戻りますけど、ギャラリーとか、パズルをもらい受ける話が出ていたころ、すでに上原さんご自身はパズルを集めていたんですか?
上原
いえ、あのころは、そんなに集めてなかったですよ。まだパズル懇話会に入ってなかったころだから。
山田
それは、あの折り紙会議で展開図を発表したときより、前の話なんですか?
上原
いや……後だな、たぶん。
山田
微妙なラインなんですね。
上原
あ、懇話会に入ったのは先ですよ。國藤先生から話があったときに「JAISTで一人、パズル懇話会に入っているやつがいるらしい」って話になったそうなんで。
山田
ははは(笑)。それで話がきた。
上原
そう。そのときには入ってた。入ってから二年ぐらいしか経ってなかったんじゃないかな。でも、わりと例会には行ってた。
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コレクター的な熱意っていうのは、ありましたか?
上原
そんなに無かったですね(笑)。数理的なパズルに興味があったぐらい。
今にしてみれば、モノはそんなに持ってなかったけど、本は持ってた。あと、プラパズルは昔から持ってたかな。
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物欲というより、知識欲だったんですかね。
上原
うん、本が好きだったからね。もちろん、ルービック・キューブは持ってたけど。……今は両方とも。
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やっぱり、このギャラリーに関わったからですか?
上原
ちょびちょびパズルを買い始めたのはあるんですが、いろいろな集まりに参加してしまったのが、やばかったんでしょうね。
山田
まぁ、きっかけがあったんですよ(笑)。
上原
あ、それと、パズル懇話会に出始めるまでは町で売ってる製品しか買わなかったんだけど、集まりに行くと、みんな何か持って来るじゃない。そういうのをけっこう買ってたな。
山田
なるほど。
上原
あれを見て、自分でパズルを作って売る人がいるんだ、って感じた。あとはショップとかに行って、毒されていったんだろうね。
山田
そのコースは、完全にアリジゴクですよ(笑)。けど、そのころNOBコレクションには触れてなかったわけですよね。
僕らの場合は、比較的あのコレクションを見ていたわけで、そこが少し違うのかな。上原さんはコレクションを見ないまま、もらっちゃおうって返事したわけだから。
上原
そうだね。
山田
NOBコレクションに初めて接したのは、いつですか?
上原
大震災のあと。飯田橋のスタジオにお邪魔して、運搬のための打ち合わせで行ったから、5月くらいかな。それで、あそこに入って、これはえらいことになった、と「若干」思ったね。
一同
若干(笑)
上原
量が多いってのもあるし、整理されてないっていうのもある。しかも、そのときは震災の直後だから、崩れちゃってたんだよね。あと、どれもパッケージがないでしょ。
山田
ええ、基本的に芦ヶ原さんはすぐ捨てる人だったんです。
海外に行ったら、まずパッケージを捨てて本体だけ持って帰るから、何もない。説明書もなくなる勢いですよ。
上原
ははは。俺も、わりとそうするパターンだけど、最近は反省して、箱はつぶして持って帰るようにしてる。
山田
それはいい(笑)。でも、芦ヶ原さんはそういう人だったな。
上原
なんかこう、本当にパズルで遊んでたんだなって感じがした。
ただ、もらったときに情報が分からないし、個人のものっていう色彩が強かったよね。
山田
たぶん、本人も言ってたけど、コレクターじゃないんですよ。
デザインのためのコレクションっていうか、そのための道具であって、たまたま集まった。だから、コレクター的な整理をまったくしてない。
上原
前に誰かが言ってたんだけど、コレクターかどうかの基準として、嫌いなものでも買うのがコレクターだって。
山田
なるほど!
もう仕方ない、パズルって名が付くから買っちゃった(笑)。
上原
そういう意味では、そこまで僕はコレクターじゃないな。
自分の中で、数理的な意味のありそうなものを買ってるつもりなんだけどね。最近は例外も多いけど、基本的には自分が好きだとか、これを買ったら論文でも書けるとか、そういうものを買ってるんです。
山田
コレクターは、もっと純粋。下心がない。
上原
そうだね。でも、そこまでは行かない。ブワーってパズルがあっても、端から端まで買うようなことはしないで、選んで買う。
だから、そこはコレクターになりきれてないかもしれないね。まだ健全の域に止まってる……こういうのダメ?
山田
……いいと思いますよ(笑)。
(つづく)

上原 隆平(北陸先端科学技術大学院大学 情報科学系 教授)
キヤノン(株)、東京女子大学、駒沢大学を経て現在の職場へ来て12年。専門は理論計算機科学、特にアルゴリズムや計算量。パズルや折り紙の難しさを理論計算機科学の観点から研究している。

上原さんのウェブサイト

山田 力志(ASOBIDEA 代表・パズルコーディネーター)
名古屋大学教員を経て、ASOBIDEAを設立。生物学の研究者の顔を持ちながら、パズル創作から映画脚本まで手がけるクリエーターでもある。

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