前から読んでも後ろから読んでも同じになる文字列、回文。日本では「竹やぶやけた」をはじめとして、一千年以上も前から楽しまれてきた言葉遊びです。第5回で紹介した絵本のタイトルも『まさかさかさま』という回文でした。今回は、そんな回文をふんだんに用いた絵本を紹介します。
まずは、言葉遊びの歴史を研究されている大学教授の小野恭靖さんが文を、レトロな絵柄が特徴の高部晴市さんが絵を描いた『さかさことばのえほん』。
題名どおり、「くるまはまるく(車は丸く)」「よるねこねるよ(夜ネコ寝るよ)」と、さかさことばが見開きにひとつずつ紹介されています。文字だけで楽しむことの多い回文ですが、それが描かれていることで面白さが倍増。
表紙の絵からも見て取れますが、描かれている絵は上下どちらからでも見られるようになっています。使われている言葉も比較的分かりやすいものが多く、それほど多くの回文がでてくるわけではないものの、雰囲気のある絵とのセットでゆっくり楽しむ事ができます。
次は、言葉あそびの絵本をたくさん書かれている石津ちひろさんと、数々のヒット作を持つ高畠純さんの絵本『ぞうまうぞ・さるのるさ』。各文を回文で構成する点は先に紹介した『さかさことばのえほん』と同様ですが、違う点としては、こちらは全体を通したストーリーを持つ絵本となっています。
お話はゾウの食事から始まります。「ぞう どうぞ」「ぞう くさ くうぞ」「ぞうくんは ごはん くうぞ」「ぞうくん どう? うどん くうぞ」……と、回文を繋いで話が進んでいきます。途中から主役はサルに交代。「さる のるさ」から最後の「さるに こねこ にるさ」まで、テンポの良い回文と、ゾウ・ウマ・サル・ネコといった愉快な動物達の絵が楽しめます。
最後は、宮西達也さんによる「サカサかぞく」シリーズ三部作。2009年発表の『サカサかぞくの だんながなんだ』、2010年発表の『サカサかぞくの だんなキスがスキなんだ』、2011年発表の『サカサかぞくの だんなしぶいぶしなんだ』です。「ティラノサウルス」シリーズや「おとうさんはウルトラマン」シリーズで有名な宮西さんは、父親や家族をテーマにしたストーリーが多いことでも有名で、この「サカサかぞく」シリーズも、そんな心温まる物語です。
第一作『サカサかぞくのだんながなんだ』の舞台は原始時代。「だんながなんだ」と妻が家出し、「つまをまつ」一家の元に「とおいおと」。その時、妻の元には「たいてきがきていた」。そこに駆けつける旦那……と、続きは絵本で。
会話はもちろん、擬音や地の文など、すべて回文という徹底ぶりには感心します。編集の中村氏との二人三脚で創られたそうです。第二作では舞台は未来へ、とらわれたおじいちゃんを救出するため、家族で宇宙へと出発します。第三作は戦国時代。怪しい忍者と武士の勝負が回文でつづられています。後半二作では、読者から公募した回文も取り入れながらストーリーが紡がれています。
今回は、比較的最近に発表されたものの中から五冊を紹介しましたが、他にもたくさんの回文絵本が発表されています。ひらがなを読めるようになった子供であれば、回文絵本を面白がること間違いなし。もちろん、大人だって楽しめます。興味がある方は探してみてください。