プロセスに興味あり

7 どこかで決断するときが来る

山田
ギャラリーの話に戻ると、実務的にはパズルをここへ移すわけですよね。そこらへん、スムーズに行ってるんですか?
上原
パズル200箱、本200箱がドーンって来たんだけど、あのころまだギャラリーができてなかったから、学内のあちこちに部屋を確保して、そこにしばらく置いてあった。ただ、移管作業は、まだ完全には終わってないよ*。
* 2016年7月現在も作業は進行中。
山田
それって、一個ずつ手続きしていくんですか?
上原
うん。ぜんぶ写真に撮って、それにN-1から番号をつけていく。だいたい一万点ぐらいの写真はできたんで、先方にチェックしてもらってます。
――――
けっこうな数ですよね。
上原
まぁね。で、何をしてるかっていうと、まず個人的なものは返してもらいたいと。
あと、同じものが何十個もあったりするんだけど、それをここに死蔵させてしまうのはもったいないから、向こうに戻すと。
山田
いや、大変だ。
――――
それでは、せっかくなので、ギャラリーの中に移動してみましょうか。
上原
ええ、そうしましょう。
(ギャラリー内へ移動して)
山田
いろいろなところに隠し扉もあるね(笑)。
――――
まぁまぁ(と言いつつ写真を撮る)。それで、基本的には、どのように展示されているんですか?
上原
この辺はこういうカテゴリーにしようと決めてから、それぞれ代表的なパズルを選んでいく感じ。不可能物体とか、組木とか、アンティークのものとか、いろいろ。
――――
透明なケースごとに分かれているんですかね。
上原
あんまり厳密なものじゃないけれど、そんなところかな。
そうだ、いちばん最初に「五重の塔」はここに入れようって決まってた。大きくてなかなか入らないし。
上原
あと、作者の二宮さん*が、この額に名前を入れて送ってくれたよ。無造作においてあるけど、これは大変な貴重品ですね。マニア好みの。
* 二宮さん …… 箱根で秘密箱などを制作している、二宮義之氏のこと。からくり創作研究会の職人さんとしても活躍中。
山田
これも、貴重でしょ。長いから。
――――
飛騨高山の知恵の輪。
上原
これを「1400年かかるパズル」だと紹介したら、それが新聞に載って、なんかすごくインパクトがあったみたい。
「どれですか?」って聞いてくる一般の見学者もいて、こっちは「これです!」って見せてるよ。
山田
その年数って、どうやって計算されてるんですか? 手数に1秒をかけたのかな。
上原
そう、そんな計算だね。
――――
柱のレイアウトとかは、建築家さんの意向で決めたんですか?
上原
基本的には、彼にお任せしてます。地元の木を使っていて、柱は全部で三種類くらいあるのかな。
山田
中に明かりが仕込んであるやつ、仕込んでないやつ、それから、透明なやつ。
上原
でも、展示方法って難しいね。あんまりゴチャっとやると見えなくなっちゃうし、スカスカだとさみしい。
たとえば、象牙のパズルも何セットかある中から、状態のいいものだけを選んで並べてるし。
山田
ここにプロトタイプと実際の製品があるけど、こういうペアは多いんですか?
上原
両方あるものは、そんなにないかも。
山田
ここには試作品が何個かあるし、これも貴重だと思うな。
山田
ギャラリーの入場者数は、年間どれくらいのイメージなんですか?
上原
たくさん来るオープンキャンパスを除くと、通年で数十人というところかな。やっぱり遠いからね。社会見学というのも、ちょっと違うだろうし、どっちかと言えば、理科見学かもしれない。
山田
(笑)
――――
NOBコレクション自体の研究はありますか?
上原
今は、ないです。「ミュージアム」じゃなくて、「ギャラリー」という名前になったのも、そういう絡みがあって。
――――
というと?
上原
ミュージアムには登録が必要なんだよね。それをするには、常勤のキュレーター(学芸員)が必要だけど、そこまでは難しい。
だから、もっとギャラリーにお金を出す人たちがいれば、ミュージアムに格上げできるのかもしれないね。そうなればキュレーターがいるから、何か研究することになるかも。
山田
そうか、それで「ギャラリー」なんですね。
上原
でも、ミュージアムの方がアンビグラムは作りやすいんだよ。ほら、museumって、ほぼ線対称だから。
一同
(笑)
上原
まぁ、何かギャラリーの活用方法を考えられるといいかな。俺はパズルで論文を書くけど、自分以外が書かないとナンだしね。
山田
僕らもそうです。パズルはおもちゃの側面があるんですけど、おもちゃと違う方向でやってみるのも一つの道だと思っていて。
――――
ASOBIDEAは、遊びなんだけど遊びじゃない方向で。JAISTギャラリーは、研究なんだけど遊びの方向に近づいていると。
上原
あ、そうかもしれない。
山田
ちなみに、展示している中で、上原さんがいちばん好きなものってありますか?
上原
難しいなぁ。
そうだ、気になっているというより、気にいらないというか……まぁ、気になっているのが、いまだに組みあがってない、この組木。ここに「ミノタウルのパズル」って書いてある。
山田
ミノタウロスと関係あるのかな?
上原
どうなんだろうね。あと、きれいな組木も好きだな。さっきの「五重の塔」とか。
そういえば「五重の塔」を運搬するときにバラしたんですよ。そういう人は、なかなかいないと思うな(笑)。
山田
ははは。
上原
それから、けっこう不可能物体も好きで、びん手まりとか。滋賀県まで見に行ったもん。
山田
愛知川ですね。
上原
そう、それ。びん手まりの館というところへ行って、作り方のビデオを最後までずっと一人で見てたけど、すごい楽しかった。
びん手まり自体は諸説あるみたいで、大妻女子大のミュージアムにも行きましたよ。なんでも、大妻コタカという女性が、びん手まりを学生たちに教えてたらしい。
――――
へえー。
上原
その学生たちの作品も飾ってあったけど、愛知川のものとはフレーバーが違ってて、ちょっと別系統だなって感じがした。
山田
こんど行ってみよう。
上原
ここで展示している二個のびん手まりも、本来は四つ組みなんだけど、残りは破損がひどくて展示できなかったんだ。直してもらうべきか、現状維持か、それも難しいところだね。
――――
たしかに。
上原
NOBコレクション全体についても、現状で維持するのが良いのか、あるいは今後も他人のコレクションを入れるかどうか、ぜんぜんアイデアがなくて。
山田
そうなんですか。
上原
ようするに、NOBコレクションなのか、パズルコレクションなのか、その境界がまだ決まってない。それを、どうするべきか、ちょっとわかんないんです。
山田
芦ヶ原さんのコレクションか、パズル一般、どっちを取るか。
上原
NOBコレクションであることを重視すべきと言う人もいるし、そのうち自分のコレクションを混ぜて欲しいと言う人もいるから、そこは難しいところなんだよね。どこかで決断するときが来るとは思うけど。
――――
そこは広さの問題とは別のことですね。
山田
直す・直さないとも別の問題。
上原
まぁ、今後の課題ですね。答えはないんですけど。
山田
とにかく活用方法でしょうね、結局は。
上原
そう。どのようにギャラリーを回していくのか、そういうところと関係しますね。
――――
いろいろ楽しみです。それでは、こんなところで。
山田
はい、ありがとうございました。
上原
ありがとうございました。
(おわり)

上原 隆平(北陸先端科学技術大学院大学 情報科学系 教授)
キヤノン(株)、東京女子大学、駒沢大学を経て現在の職場へ来て12年。専門は理論計算機科学、特にアルゴリズムや計算量。パズルや折り紙の難しさを理論計算機科学の観点から研究している。

上原さんのウェブサイト

山田 力志(ASOBIDEA 代表・パズルコーディネーター)
名古屋大学教員を経て、ASOBIDEAを設立。生物学の研究者の顔を持ちながら、パズル創作から映画脚本まで手がけるクリエーターでもある。

個人のウェブサイト

他では見られない、珍しいパズルを公開中。

NOBコレクションの中から、普段は展示されていない数点が展示されています。場所は、JR小松駅のすぐ近くにある、サイエンスヒルズこまつ。ここは科学に親しむ総合施設で、この夏休みは面白いイベントも多数ありますよ。パズルの展示は数ヶ月の期間限定ですが、ぜひお立ち寄りください!